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タイトル
多和圭三 多摩美術大学退職記念展
会期
2020年1月20日~2020年2月15日
展示会詳細
ヒノギャラリーでは2020年1月20日(月)より「多和圭三 多摩美術大学退職記念展」を開催いたします。
多和圭三は40年以上鉄を主材とし制作を続ける彫刻家です。本展は2009年より多摩美術大学美術学部彫刻学科の教授として教鞭を執った多和の退職記念展となります。就任した2009年から現在に至るまでの11年間に制作された作品を、新作を中心に展観いたします。
多和は素材、主に鉄をとおして人間と物質の関係を探りながら、最終的にひとを含む「もの」の在り方を制作の中で追求しています。とはいえ、おそらく本人はもっと素朴で原初的なところにその意識を巡らせており、それは2010年に足利市立美術館を皮切りに開催された個展「鉄を叩く−多和圭三展」や、直近で参加の平塚市美術館から巡回したグループ展「空間に線を引く 彫刻とデッサン展」のカタログに寄せた、詩的で人間味溢れる自身のことばからもうかがうことができます。
昼寝
目をあけると空
一瞬 底なしの空に落ちそうになる
必死に 背中で しがみつく
「鉄を叩く−多和圭三展」図録より抜粋
あることによって成る 何か
光と空に 剥き出しの自分
孤独か 一体か
光の強さに押しつぶされ
やがて消え 光が残る
「空間に線を引く 彫刻とデッサン展」カタログより抜粋
多和が長年向き合っている鉄は、言うまでもなくどっしりと重く、その存在感たるや強靭堅固で、たとえ小さくとも、それは「ある」ことを顕示するに充分な素材です。しかし、多和の作品をよくよく見ていくと、どうやら作家はこの圧倒的な実在性を認める一方で、その表裏をなす虚無へも同等の意識を向けていることがわかります。いつかは消えゆくすべての「もの」を慮り、存在することの難しさや厳しさ、またそうであるからこそのありがたさや尊さを、多和によって導き出された「もの」は作家に代わって黙然と、そこに「ある」ことで教示し続けます。
本展では、旧作より鉄はもちろん、大谷石を使った作品を、そしてここ10年ほど取り組んでいる鉄のスクラップによる新作3点を展示いたします。
島のような不思議なかたちをしたそれら3点は、これまでの制作で出たあまった端材の鉄、または用途のない廃材からつくられたもので、実は鑑賞者からは容易に見ることのできない接地面(底面)が研磨され鏡面になっているといいます。この表現もまた、ここ数年多和が意識的におこなっているアプローチで、そこには「もの」の実在性を強調しながらも、他を映し出す鏡面(鏡像)にすることで、その実体を消しなくしてしまおうという対照的な試みがなされています。作家の中にある虚実の概念は、こうしたところからもうかがい知ることができるでしょう。
多和にとっては一つの節目となる今回の展覧会。これまでの仕事を振り返りつつ、これからのさらなる展開に注目しながらご高覧いただければ幸いに存じます。
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